人の心を操る魔法「ナッジ」を活用したリスク回避策

行動心理

デパートや駅などのトイレで、便器の中央に弓道の的のような「◎」マークに出会ったことありませんか? 私もついつい、そこを狙って用を足してしまいます。

これ、じつは「ナッジ」を使った戦略なんです。ナッジとは「そっと後押しする」という意味。例えば私たちが何か行動するときに、選択の余地を残したまま、特定の選択肢をとることを促す仕組みを表します。

今回は、このナッジを活用したリスク回避策について考えてみます。

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ナッジ(nudge)とは

 

さかのぼること1999年、経費削減に悩んでいたアムステルダムのスキポール空港は、男子トイレに目を付けました。トイレの床の清掃費がとても高くついていたからです。

そして、数日後、小便器の内側に一匹のハエの絵が描かれました。

その結果、なんと清掃費が8割も減少したんです。これが有名な"アムステルダムの小便器のハエ"すなわち「ナッジ」の最も有名な成功例です。

 

ナッジ(nudge)とは、「ヒジで軽く突く」という意味の英語の動詞です。行動経済学による科学的分析に基づいて人間の行動を変える戦略のことです。先ほどのスキポール空港の例の場合、「人は的があると、そこに狙いを定める」という分析結果に基づいて、小便器にハエという的を描いてトイレを正確に利用させたわけですね。

このトイレの的、大人だけでなく子供にも効果があります。というより純粋な子供の方が誘導されやすくて、一生懸命に的を狙いにいくと言った方が適切かもしれません。最近では家庭用の洋式便座用の的も販売されています。トイレ掃除が楽になったご家庭もたくさんあるのではないでしょうか。

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ナッジの活用例

このナッジ、日常生活の中でもさまざまなところで用いられているんです。あなたもたぶん、気づかないところでナッジの効果で誘導されているはずですよ。ここでは、ナッジの活用例について見てみたいと思います。

コンビニのレジ前にある足跡マーク

 

コンビニで買い物をしてレジへ向かったときに、レジから2~3歩後退したところを先頭にして、レジ待ちの列ができていることありませんか? 「あ、すみません。」と列の最後尾に並び直して、先頭まで行ったときに足元に「足跡のマーク」があったらナッジの効果によるものです。

レジの前に足跡のマークを設置することで、「レジを待つのはそこの場所なのか、そこに並ぼう。」という行動に誘導するものなんですね。

初めて入ったコンビニでは足跡のマークも分かりにくいかもしれませんが、一度これで列を並び替えるような経験をすると、次回からは間違いなくこの足跡マークのところに並びます。

うなぎ屋の松竹梅

うなぎ屋にいってメニューを広げると、だいたい決まって「松・竹・梅」といった3段階の価格設定になっています。これもナッジによるものです。

松・竹・梅の違いは、単純にうなぎの量が違うだけのお店が多いんですが、お客の心理として、3段階の食べ物があると、真ん中の平均ランクを選ぶ人が多いみたいなんです。

「松は美味しそうだけど高いな。梅は安いけど貧乏くさいし周りの目が気になる。であればせっかくうなぎ屋に来たんだから真ん中の竹を注文しよう。」という心理です。

ほとんどの人は、3つの選択肢があった場合に真ん中を選ぶ傾向があるようです。このような心理を行動経済学では、極端な選択を回避するということで、”極端性回避の法則(別名、松竹梅の法則”といいます。

 

ですから、うなぎ屋はこういうお客の心理をあらかじめ分かっていて、「竹」で儲けるためにうなぎの量や値段を設定しているんですね。私がよく行く近所のうなぎ屋さんも、松 2,600円、竹 1,600円、梅 1,200円という3段階の設定ですが、なんやかんやでいつも「竹」を注文しています。完全に戦略にのっかってますね(笑)

余談ですが、我が家では自動車を購入すると神社へ交通安全の御祈祷に行くんですが、初穂料(はつほりょう)が3種類あるんですよね。違いはお守りの大きさと色なんですが、10,000円、5,000円、3,500円の3種類です。こういうときも困りますよね。「交通安全のお守りだから、値段が高い方がご利益がありそう」って考えちゃいます。

スーパーの店長おすすめ

スーパーなどで、「店長おすすめ」といった札が貼られた商品を思わず購入してしまった経験ありませんか? とくにそれを買いに来たわけでもないのに、ついつい釣られて買ってしまったようなケースです。こういうのもナッジを用いたお店の手法ですね。

「店長おすすめ」とあれば、お客の心理として「店長さんがススメているんだのから買って損することはないよね。もしかしたら今買わないとチャンスを逃してしまうかも」という状況になるかもしれません。まさにお店の戦略にのってしまったわけです。ただし、本当におススメであれば問題ありませんよ。

ナッジを活用したリスク回避策

このようなナッジですが、私たちの日常生活に潜むさまざまなリスクを回避するために活用する方法はあるのでしょうか? 私がぱっと思いつくものでは次のようなものが考えられます。あくまで私の考えです。

所要時間表示による道路渋滞の緩和

高速道路を走っていると「〇〇まで約120分」などの所要時間の表示ありますよね。通常であれば30分で行けるところが4倍の120分ともなれば、あるドライバーは、「次のインターチェンジで高速道路から降りて、国道で行こうかな」と判断するかもしれません。

一方、別のドライバーは、「サービスエリアがある高速道路の方がいいな、とくに急いでいないし、このまま高速道路で行こう」と判断するかもしれません。

これもナッジの一つなのではないでしょうか。高速道路で渋滞に巻き込まれて全然車が進まない経験をされた方も多いと思います。ドライバーにとっては、所要時間の目安を表示されることで、そうした渋滞に巻き込まれるリスクを回避する選択肢が与えられたわけです。また、多くのドライバーの選択によっては結果的に渋滞緩和にもつながります。交通分散による渋滞緩和ですね。

避難勧告への応用

台風が接近して災害のおそれが高まってくると避難勧告が発令されます。でも、なかなか住民は避難しません。「今まで災害に遭ったことがないから、今回も大丈夫だろう。」という判断です。心のどこかでは避難するという選択肢も少しくらいはあるのかもしれませんが、多くの人は避難しません。

では、避難勧告が発令されたときに「〇〇さん、そこの裏山が崩れるかもしれないから一緒に避難しましょうよ。」と近所の人が呼びかけたらどうでしょう。少なくとも普段からお付き合いのあるお知り合いの方が具体的に裏山が崩れるかもしれないと指摘してきたら、「今回は避難しようかな。」と考えるかもしれません。

せっかく声をかけてくれたのに避難しなかったら今後のお付き合いに支障が出るかもしれないと考えるかも知れませんし、画一的な役所の呼びかけよりも説得力がありますよね。

災害時に、"役所からの呼びかけ"と"隣り近所の方からの声かけ"があったら、私だったら間違いなく隣り近所の方からの呼びかけに反応して一緒に避難すると思います。こういう避難の仕組みが出来れば災害で犠牲になる人も減るのではないでしょうか。

まとめ

いくつかの選択肢があるときに、そっと後押しすることで、その人の行動を特定の選択肢へ誘導する「ナッジ」ですが、今や世界中で活用されています。私たちが気づかない、いろいろなところでナッジを用いた誘導が行われているんですね。

人の心を操る魔法「ナッジ」。ぜひ行政の防災分野にも活用していただき、災害のおそれがあるときに一人でも避難する人が増えるようになれば良いと思います。

 

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