これでパワハラは無くなるか? パワハラ防止策を企業に義務づけ法制化

ハラスメント

最近、韓国のパワハラ問題がニュースで取り上げられています。大手IT企業の経営者による社員への平手打ち、平昌冬季五輪のカーリング女子チーム(メガネ先輩ほか)に対する監督らによる暴言、大韓航空など財閥一族によるパワハラ問題など、相次いでパワハラの実態が発覚し、社会問題になっています。

これは、韓国に限ったことではありません。日本でも、企業や学校、スポーツ界などでパワハラが横行しているんです。

こうした中、厚生労働省は"企業がパワハラ防止に取り組むことを法律で義務化"する方針を固めました。今回は、パワハラの取り締まりが職場で可能なのか、その実現性について考えます。

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企業にはびこるパワハラの実態

 

厚生労働省が実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査(平成28年度)」によれば、次のようにまとめられています。

パワーハラスメントの予防・解決のための取組を実施している企業・団体の比率は半数を超えている。

従業員規模別にみると、規模の大きな企業に比べ、規模の小さな企業では、パワーハラスメントの予防・解決のための取組を実施している比率が低くなる。

平成24年度実態調査と比較すると、企業調査、従業員調査の両方において、すべての従業員規模の企業で取組が進んでいる。

出典:厚生労働省ホームページ(平成28年度職場のパワーハラスメントに関する実態調査

 

パワハラがこれだけ世間で問題視されている中、半数以上の企業でパワハラの予防・解決のための取組が行われていることは、当然のことかなと思います。一方で、従業員数の少ない中小企業などでは、未だにこうした従業員が抱える問題に対する取組や意識が希薄なんですね。

しかし、上記調査において、企業に聞いた結果と、従業員に聞いた結果では明らかに相違があったんです。

(企業調査)

企業に調査した結果では、従業員1000 人以上の企業で「実施している」と回答した比率が 88.4%と最も高く、規模が小さくなるほど比率が低くなり、99 人以下の企業では 26.0%であった。

(従業員調査)

一方、同じ質問を従業員にしたところ、勤務先が「積極的に取り組んでいる」又は「取り組んでいる」と回答した者は 25.7%。さらに「ほとんど取り組んでいない」又は「全く取り組んでいない」と回答した者は51.5%であった。また、従業員規模別でみると、「積極的に取り組んでいる」又は「取り組んでいる」 と回答した比率は、規模が小さくなるにしたがい減少しており、従業員99人以下ではわずか9.2%であった

出典:厚生労働省ホームページ(平成28年度職場のパワーハラスメントに関する実態調査)を一部加工

 

これを見ても、企業側は「パワハラ対策に取り組んでいますよ」としているんですが、従業員から見ると必ずしもそうではなく、なんら対策が講じられていない企業が未だに多数存在するということなんです。

とくにパワハラに関しては、職務上の地位や人間関係など職場内で優位な立場にある上司が、部下に対して理不尽な言いがかりや暴言を浴びせるといったケースが多いために、第三者から見ると「ちょっと行き過ぎた指導のようにも見えるが、部下の教育・育成のためにやっているんだな」というようにとられてしまう場合もあるみたいなんです。部下からしたら、これはとんでもない誤解ですよね。

ですから、被害者である部下が社内のしかるべき部署などに報告しない限り、パワハラはなかなか発覚しにくいんです。そのためには、企業がキチンとパワハラ撲滅の取組を推進する必要があるんですね。

今こうしているときにも、上司からのパワハラに悩み、それを誰にも打ち明けられずに抱え込んでいる人がどれだけいるのでしょうか。これは本当に深刻な問題だと思います。

 

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企業のパワハラ対策を法制化する方針に

こうした中、いよいよ厚生労働省もやる気を出しました。マスコミ報道によれば、企業内でのパワハラを防ぐために、企業が自主的にパワハラ防止策に取り組むことを法律で義務づける方針を固めたようなんです。来年の通常国会への関連法案の提出をめざすということです。

では、企業内のパワハラ対策について法制化するときの課題について考えてみます。

パワハラの明確化

『業務上の指導』とパワハラの境界がどこなのか、これは上司と部下がキチンとパワハラについて理解していないと難しいと思います。また、上司は"部下をいじっている"つもりでいても、部下は"いじめられている"と思っているケースもあるでしょうから、そこの判断は難しいですよね。

上司は部下を教育するためにあえて厳しい言葉を使ったとしても、部下がそれをパワハラだと感じれば、そこでアウトです。こうなると、上司もうかつなことは言えません。

また、上司と部下の関係だけでなく、先輩、同僚、顧客なども含めて、 どこまでをパワハラの行為者とするかも課題になると思います。

裁判所の判断

次に、裁判所が企業内のパワハラ案件に対してどのような判決を下すかです。過去の判決事例をいくつか見てみると、状況に応じてパワハラが認められる場合と認められない場合がありますね。
(出典:厚生労働省ホームページ(裁判例を見てみよう))

 

「上司がいじめを認識しつつ対応を取らなかったため自殺したとして、損害賠償請求が認められた事案 」 川崎市水道局事件(横浜地川崎支判平14.6.27判決、東京高判平15.3.25判決)

<事案の概要>
Xらの長男であるAは、被告Y1市水道局の職員として勤務を開始した後、水道局工事用水課がXに対し、水道工事(以下「本件工事」という。)を行うために土地の貸し出しを求めることがあり、これに対し、Xは拒否ししたため工事費が増加するといった出来事があった。その後、Aは異動により同課に配属されたところ、自殺するに至った。Xらは、Aが、同課の課長であるY2、係長であるY3、主査であるY4からのいじめ、嫌がらせなどにより精神的に追い詰められて自殺したとして、Y1らに対し、損害賠償を請求した。

本事案は、職場責任者は職場内でいじめがあるとの疑いが生じた場合には、①直ちに、いじめの事実の有無を積極的に調査し、②いじめの事実があると認識した際にはいじめを制止するとともに、いじめの加害者らにも謝罪させるなど、被害者の精神的負荷を和らげる処置をとるだけでなく、③人事担当部門に報告して指導を受け、④速やかに善後策(防止策、加害者等関係者に対する適切な措置、配転など)を講じるなどといった対応を検討すべきという判決が出された例です。安全配慮義務違反により、国家賠償法に基づく慰謝料等の賠償請求が認められています。

明らかに職場内にいじめが認められる場合には、職場の責任者である上司は、キチンと対応しなければならないんです。

 

「上司から嫌がらせを受けたとして損害賠償請求したものの、認められなかった事案」  損保ジャパン調査サービス事件(東京地判平20.10.21判決)

事案の概要
Xは、Y1社に雇用されていたところ、対人トラブルを多数起こしており、始末書も多数回提出している中で、被告の上司であるY2(但し直接の上司ではない)が直接注意するようになった。その後、Xは、①Y2から、「てめー、一体何様のつもりだ。責任を取れ。自分から辞めると言え」などとの退職強要や、「てめえの親父にも迷惑がかかるんだぞ、いいんだな」との脅迫的言辞を受けた上に、②Y2から、たびたび「俺が拾ってやったんだから感謝しろ」と威圧混じりに言われたほか、③嫌がらせないしパワハラにより別部署への異動を命じられ、それにより、XはPTSDに罹患して、休職を余儀なくされたと主張し、Y1及びY2に対して損害賠償等を求めた。

本事案は、部下が上司から嫌がらせ等を受けたとして損害賠償を求めたとしても、当然ながら、必ずしも認められるものではないという判決が出された例です。不法行為を構成する事実は、被告において認められないとして、原告の請求は棄却されています。

上司と部下の日頃の関係性なども含め、上司の嫌がらせが認定されなかったものですが、上司としては、部下との間で、日頃から円滑な人間関係を形成しておくことが重要ですね。

 

「上司の叱責とパワハラ」 前田道路事件 (松山地判平成20年7月1日、高松高判平成21年4月23日)

<事案の概要>
Y社は建設業を営んでおり、Aは同社において建設施工業務に従事していたところ、B営業所長に昇進しました。昇進後、Aの上司がB営業所に監査に訪れたところ、Aが架空出来高を計上するなど不正経理を行っていたことが発覚しました。上司は当該不正経理を早期に是正するようAに対し指導しましたが、Aは1年近く是正を行いませんでした。これに対し上司は、Aに対して日報報告の際、電話でたびたび叱責するとともに、業績検討会において、「会社を辞めれば済むと思っているかもしれないが、辞めても楽にならない」旨の発言を行いました。Aは当該検討会の3日後に、「怒られるのも、言い訳するのも、疲れました」などと記した遺書を残して自殺し、その遺族がY社等に対して、民事損害賠償請求を提起したものです。

本事案は、地裁判決では遺族側の損害賠償額約3,000万円が認容されたんですが、その後の高裁判決で一転して遺族側の請求が否定されたものです。これは、上司が叱責に至る理由や経緯について、地裁と高裁で事実認定に相違があったからだと思われます。

地裁判決では、不正経理を早期に是正するための架空出来高の解消目標が達成困難な数値であったとした上で、上司の叱責が厳しい点を捉え、違法としています。

一方、高裁判決では、架空出来高の解消目標が過剰なノルマにあたらないとした上で、むしろ1年近くも上司が不正経理等の是正を求めたにも関わらず、その改善が見られなかった経緯を重く評価し、違法性を否定しています。

この事案から学ぶべきは、部下に対して繰り返し指導する中、その改善が一向に見られないような場合には、上司が部下に対して厳しく叱責することも、部下に対する指導経緯によっては適法と評価されうるということです。つまり、部下に落ち度がある場合には上司の叱責も認められることがあるということですね。

まとめ

職場のパワハラ行為をキチンと処分するためには、いくつかの課題があるように思えます。まずは、パワハラの行為者を特定し、明らかにパワハラに該当することを証明しなければなりません。それによって、上司・部下の関係にヒビが入る可能性もありますよね。

よく「パワハラをする人は、そういう自覚・意識が無い中でパワハラをしている」という話を聞きますが、部下から見たら甚だ迷惑な話だと思います。まずはそういった上司を企業がキチンと改善するところから始めてもらいたいですよね。例えば、匿名のアンケートを全社員にやらせて、パワハラしている社員をピックアップするところからです。

とにかく、一刻も早く、パワハラの無い社会を創ってもらいたいと思います。パワハラの被害に遭っている部下のみなさんも、上司に負けないように強い心を持ちましょう。

 


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